「統合政府論で『財政は健全』などとは1ミリも言えない」「ばらまいた後、財政再建」説をどう思うか?」「福井元日銀総裁の口述回顧からわかる黒田日銀の異常さ」他

2021年10月31日

1.「ばらまいた後、財政再建」説をどう思うか?」

昨日「矢野財務省財務官論文について」 15分ほど、ニッポン放送(AM1242 FM93)関東ローカル「渡邉美樹5年後の夢を語ろう!」でコメントした。ラジコで1週間は聞くことが出来る。以下、話した内容に多少の補足をいれて説明すると以下の通り。

(質問)「今はコロナ禍からの経済回復建期なのだから、まずは財政出動が大事で、回復した後、財政再建をすればいいのではないか?今は分配が重要だ」との意見に関してどう思うか?」

(回答)「平時に健在財政を行ってきたドイツなら分かる。しかし日本の場合、

(真に助けなければならない人は助けるのは当然として)、「平時に比べて苦しいから助ける」と、ばらまけば、国民全員が助けを必要とする状況に陥りかねない。「助けるサイドの人全員」が「助けを必要とするサイドに人」に変わってしまう悲惨な状態となる。そうなれば「真に助けを必要とする人」さえ助けられなくなる。今、崖っぷちにいるが、崖っぷちでも崖の上なのと、崖からの転落中では景色が様変わりだ。

 

2.「統合政府論で『財政は健全』などとは1ミリも言えない」

昨日のラジオでは、統合政府論に関する質問にも答えた。

(質問)統合政府論者は「国の発行国債と日銀の保有国は相殺されるから問題ない。財政は健全だ」と主張するがどう思うか?

(回答)とんでもない。問題が無いのなら現状発行している国債を1000兆円ではなく1京円、10京円に大増発して、日銀に買い取ってもらえればいいではないか?それが出来るなら、必要な歳出はすべて国債発行で賄える。無税国家の成立だ。負債が国債という長期から日銀当座預金という短期(=民間銀行からの預金)に変わるだけ。だって、何にも問題ないというのだから」

 

3.「MMT派がよりどころとする財務省の『いくら国債を発行してもまったく問題ない』裏話①」

28日、29日と朝日新聞原真人編集委員の記事が朝日新聞デジタル版に載った。

MMT派がよりどころとする財務省の「「いくら国債を発行してもまったく問題ない」とのホームページの裏話(?)が面白い。原編集委員曰く「いくら国債を発行してもまったく問題ないと主張するMMT論を唱える政治家たち。彼らが『財務省だってホームページでそう書いているじゃないか』と指摘する内容は、かつて財務官だった時代にみずからの名前で出した外国格付け会社あての意見書に書かれていたものだ。当時、日本国債の格下げ圧力にさらされていた財務省が苦し紛れに出したものだった。

MMT派に『黒田意見書』を人質に取られてしまった格好の財務省では、「あんな意見書を出したのは明らかに失敗だった」とこぼす幹部もいる。

このほか、記者からは「いまのように供給制約のもとで資源価格が高騰しているような環境下で大規模緩和を続ければ悪いインフレが起きるのでは」といった質問もあった」(原編集委員)。ちなみに高橋洋一さんが、あの意見書の原稿は自分が書いたとしばしば明言されている、と理解している。

https://www.asahi.com/articles/ASPBX77KJPBXULZU00Q.html?iref=pc_ss_date_article

 

4.「『いくら国債を発行してもまったく問題ない』裏話②」

先に紹介した原編集委員は、総裁会見前日にさらに詳しく財務省の「「いくら国債を発行してもまったく問題ない」ホームページの裏話(?)に言及されている。

 「黒田総裁には、本当なら現状の正しい総括と今後の正常化に向けたプロセスを説明する責任がある。(略)にもかかわらず漫然とこれまで通りの政策を続けるのでは、もはや責任放棄と言っていい。 この政策が政府の借金膨張を可能にし、現下の衆院選をめぐる各党のバラマキ合戦をもたらす下地をつくっている。」

「このころ日本政府・財務省は、外国格付け各社による「格下げ圧力」に追い詰められていた。もし日本国債が「ダブルAマイナス」から「シングルA」に引き下げられれば、日本国債を大量保有する国内銀行が自己資本比率規制の面から苦しくなり、大量発行している国債の消化に支障が出る恐れもあった。だから「日本国債のリスクは小さい」ということを強調して乗り切ろうとしたのだ。

それが、あだとなった。ここ数年、MMT論者たちがこの意見書をMMT正当化の材料に使っている。いま財務官僚たちは「あのとき苦し紛れにあんな意見書を出したのは明らかに失敗だった」と悔やむ。

黒田総裁の説明責任はこの点でも問われる。本当に紙幣を大量に刷って、それで国の財政をまかない続けても、日本国債のリスクは小さいのか。いまも同じことが言えるのか」

https://www.asahi.com/articles/ASPBX41XCPBXULZU004.html?iref=pc_ss_date_article

 

5.「福井元日銀総裁の口述回顧からわかる黒田日銀の異常さ」

2019年11月29日の日経新聞に福井俊彦元日銀総裁の口述回顧が載った。これは日銀金融研究所が16~17年に実施し、18年に内部向け非公開資料としてまとめたもので情報公開法に基づく請求を受けて開示されたものだ。これを読めば 今の異次元緩和が、金融の専門家から見て、いかに危険で異常であるかがわかる。福井総裁は「着任後は長期国債は買い増ししないとひそかに決めた」「私は、長期国債を抱えすぎて、あとでポートフォーリオのバランス上、非常に問題が起こる、あるいは財政政策との敷居が低くなりすぎるというリスクは避けようとした」と回顧されている。

福井総裁が2003年3月に着任した当時の日銀の長期保有額は58兆円。58兆円の保有でも「もう増やしちゃいけない」と福井総裁が思っていたのにいまや

504兆円で約9倍だ。いやはや、だ。