1.「インフレは恐怖の対象」
木曜日・金曜日と、米経済指標の内容が弱かったため、リセッション(景気後退)懸念が強まった。そこで米国長期金利が下落し、円安進行が一時的に止まった。世の中、株価下落は大嫌いだから、楽観論が出てくると「そうだ、そうだ」のお祭り騒ぎになっただけ。楽観論は、すぐしぼむだろう。
これっぽっちの景気悪化でFRBが強烈な引き締めを辞めるわけがない。引き締めを躊躇するのは、例えばNYダウが、今の半値の15,000ドルに下がったとかそういう時ぐらいだろう。これっぽっちの米経済指標の悪化で金融引き締めを辞めるほどインフレの恐怖は甘っちょろいものではない。
2.「日本のバブルとの比較」
先日、大きな勝負をするときは実際に現地に行って5感で感じなければならないと書いた。実際、今回、私が5月から6月にかけて1か月間、米国に行って感じたことは、米国のインフレはすさまじいということだった。インフレ鎮静化が最大の政治目的になるのがよくわかった。
1975年から80年の日本のバブル当時、CPIは、今日銀が目標としている2%よりはるかに低かった。しかし経済は狂乱した。不動産や株の高騰による「資産効果果」によって起きたのだ。今の米国はあの時の日本と同じだ。日本のバブル時は為替で円が毎年40円から50円上昇していたから、そのデフレ要因が狂乱経済を相殺しCPIは上昇しなかった。一方、現在、ドルは安定しているので資産バブルとCPI上昇が同時に起きている。要は、カネ余りによる資産効果が欧米のインフレの要因だということ。これはお金を回収しないと鎮静化できない。
3.「日本で考えるほど「米国のインフレ懸念は生易しいもの」ではない。
日本のバブル時、私は日銀に行き、「不動産価格が上昇すると、我々サラリーマンはオフィスから遠くの家しか購入できず、通勤時間が伸び、クオリティ―ライフが劣化する。資産価格の動きを金融政策の判断基準にしろ」と強烈に提唱していた。バブル最後に、当時の澄田日銀総裁は「資産価格の動きを見落として引き締めが遅れた」と反省談話を出された。このように日本のバブルの時も、不動産価格の急騰が国民のクオリティ―ラ・オブ・ライフの劣化を招き、それが大きな問題となったが、米国はもっとすさまじいのだ。それが米国に行って一番感じたこと。息子夫婦の住居も、私が借りた住居も賃料の値上がりがすさまじかった。私のところなど4か月後の契約更新に25%アップを要求してきた。さらには空き物件がどんどん減少していたのだ。ここで、ハタと気が付いた。日本は借家法があるから賃料値上げで大いに困るのは新規に借りる人だけ。米国では貸主と借主が同等の立場だから、1年とか2年の契約期間が終わると、全借家人が値上げの恐怖にさらされる。食べ物は切り詰めれば何とかなるが、住宅賃料はそうはいかない。金額もでかい。金利が高くなり新居購入をあきらめた人が賃貸市場になだれ込んでくるから、空き物件はますます無くなっていく。要はインフレより資産インフレが米国人にとって家賃上昇は多くの人の恐怖なのだ。資産インフレ退治にFRBが弱腰を見せるわけがないのだ。日本で考えるほど「米国のインフレ懸念は生易しいもの」ではない。
4.「ボルカ―のサタデイナイトスペシャル再現の可能性」
金融引き締めを一時中断すればインフレがすぐぶり返し、悪性インフレとなり1979年のボルカ―のサタデイナイトスペシャル再現(長期金路委20%、FFレート24%)の可能性がぐんと高まる。FRB はサタデイナイトスペシャルを充分研究しているはずだ。世の中に金が溢れているたががゆえに起きたインフレという意味で、当時と現在のインフレとでは発生原因が同じだからだ。しかも財政ファイナンスをした今の方が、よほどにお金がじゃぶじゃぶだ。インフレを経験していないから、現役の市場参加者もアナリストも怖さを知らないだけ。一時的な景気後退などインフレの惨事に比べたら、かわいいもの。金本位制を放棄してから世界の中央銀行の歴史はこの20~30年を除きインフレとの戦いだった。
5.「サマーズ氏いわく『すぐ増税を』」
ブルムバーグ記事によると、元米財務長官・元ハーバード大学学長は「インフレとの闘いでFRBを支援するために政府は増税を!と主張しているそうだ。経済から需要を取り除きインフレを抑えるためだ。もちろん増税分を基に新たな歳出増をしてならないと説いている。この点はMMTが主張する「インフレが進捗した財政引締めで対処する必要がある」との点で同じだ。ところが日本のMMT論者もどきは物価高の今、増税どころか減税を主張している。需要を刺激しろと言っている。もう滅茶苦茶。日本のMMT論とは「働かずに金よこせ」論に過ぎなかったことを証明した。日本国政府も物価対策と称するバラマキで需要を喚起している。唯一インフレ抑制の手段を持つはずの中央銀行もなす術がないばかりかインフレ刺激策をとっている。この国は財政・金融政策など存在しない。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-07-22/RFFM0LDWRGGI01?srnd=cojp-v2
6.「近づく黒田インフレ」
原真人朝日新聞編集委員の記事。締めは「その黒田日銀の異次元緩和に対し、最近では『インフレの元凶』という見方も次第に広がっている。『デフレの元凶』批判を避けるために選んだ異次元緩和の行き着く先が、白川日銀が味わった四面楚歌の状況に近づいているのは、なんとも皮肉な話である」
「黒田日銀の異次元緩和は『インフレの元凶』」はまさにその通り。異次元緩和は「ハイパーインフレを起こすから」という理由で世界中で禁止されていた財政ファイナンス(=中央銀行による政府への信用供与)そのものなのだから、「黒田インフレ」が起こるのは当然の帰結。
https://www.asahi.com/articles/ASQ7P7L3JQ7PULZU00R.html?iref=pc_ss_date_article
7.「私が提唱していた「金融政策」とは?」
私は「異次元緩和」には当初から「ジリ貧を避けようとしてドカ貧になる」と当初から大反対だった。私のことを「ただ反対しているだけ」と思っている方も多いだろうが、私は当初から対案を示している。本には昔から書き続けているし、国の内外に発信してきた。ただ国内では「藤巻は頭がおかしくなった」と誰も相手にしてくれなかっただけ。だいぶたってからだがハーバード大のロゴフ教授は私と同じことを主張し始めている。
私の主張は「伝統的金融政策に固着せよ」、だった。「伝統的金融政策」は効果があることも、副作用がないことも実証されているからだ。伝統的金融政策とは、「景気が悪ければ金利を下げ,良くなれば金利を上げる」である。景気が悪くなってゼロ%になったから次はマイナス金利にすればいいのだ。預金金利も、貸付金利も日銀当座預金への金利もすべてマイナスである。
8.「黒田日銀の行った『非伝統的金融政策』とは?」
一方、黒田日銀が採用した方法は「非伝統的金融政策」と言われているように金利の他に、お金の量を増やす政策だ。これは、もっともらしい名前を付けたが、ハイパーインフレという「財政ファイナンス」そのものであり副作用(=ハイパーインフレ)も実証されている方法だ。それを「あとは野となれ山と鳴れ」で実行した。なお、黒田日銀は「マイナス金利政策」と名乗っているが、財政ファイナンスを導入してから、日銀当座預金500兆円のうちたったの40兆円にマイナス金利を付けただけで、あくまでも“非”伝統的禁輸政策であり、私の主張する「伝統的金融政策」ではない。
9.「私の提唱していた伝統的金融政策」は何故採用されなかったのか」
朝日新聞、原編集委員の記事を読んでいて、なぜ「私の提唱していた伝統的金融政策」が採用されなかったのかの分析を8月3日発売の本に書き忘れていたことに気が付いた。(その他の私のマイナス金利論は、今回の本にも詳しく書いてある)。一番の理由は、「預金がマイナスになることは世の人の常識に反するから」だろう。しかし、金融が分かっている財務省や日銀マンの中には、理解してくれた人がいただろう。それでもそれが採用されなかったのは財政破綻の先送りには役に立たないからだ。
「異次元緩和」の最大の目的は財政破綻の送りだ。私の提唱するマイナス金利論は、財政破綻の先送りにはならない。財政の赤字放置がこれから起こる国民が味わう自国の原因だ。異次元緩和はそれを先送りしただけ。私がハイパーインフレ近し、という理由でもある。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-07-22/RFFODUDWX2PV01?srnd=cojp-v2
10.「ピアノコンサート」
一昨日は、三井信託宅千葉支店時代のオオニシ先輩に誘われて、慶応卒のピアニスト西井葉子さんのミニピアノ。コンサート@渋谷のタカギクラビア松濤サロン。力強い演奏だった。隣席は駐日クロアチア大使(偶然)。昨日はオオニシ先輩に誘われて、なじみの松乃鮨へ。オオニシ先輩(経済学部)、松乃鮨大将(経済学部)、ピアニストの西井さん(文学部)は、皆、慶応卒。慶応の音楽同好会(?)が誰かをサポートしようということで、選んだのが西川さんとのこと。