1.「経常収支赤字は何をもたらすか?」
今年初めころから「為替でこんな簡単なマーケットは、長いディーリング人生で初めてだ」というセンテンスをたびたび書いてきた。「 私の長いディーラー人生の経験から 、ドル・円の動向を決める二大要因は経常収支動向と日米金利差だと思っている。その二大要因が同時に円安方向へ トレンドとして向いて来たのは初めての経験だ」(週刊エコノミスト:4月18日発売号(4月26日号拙稿)。昨日発表された経常収支は今年5月以来2か月ぶりだが、そうはいっても黒字は前年同月と比べて86.6%の減少だ。ますます近き将来、通年での赤字が見えて来た。経済学的に言うと、経常赤字は「自国通貨の下落」又は「長期金利の上昇」または「その両方」だ。金利差と経常収支動向、円安・ドル高ポジションは鬼に金棒だ。
2.「私の円安予想の主たる理由は『経常収支と日米金利差』ではない」
「経常収支と日米金利差」で円安と今、書いたが、これが私の円安予想の主たる理由ではない。ばらまいた資金の回収を急ぐ欧米米中央銀行と未来永劫にお金をバラマキ続けなければならない日銀との差が金利差拡大の数倍のエネルギーを持つ円安要因だ。希少価値が強まり奪い合いが始まるドルと毎日天から雨あられと降ってくる円、どちらが価値を持つか、だ。なお、日銀がばらまいたお金を回収すると、長期金利暴騰で日銀は債務超過になるし政府は予算を組めなくなる。
3.「なぜ欧米はばらまいたお金を回収出来て日銀は出来ないのか?」
8月の発売した「X デイ到来」(幻冬舎9に詳しく書いた。要は、池の中の金魚が撤退しても池の水位や環境に変化は無いだろうが、鯨が撤退するとそれらが激変するからだ。
4.「円暴落、紙くず化の理由」
そして円暴落、紙くず化を私が予想する最大の理由は、今後起こりうる日銀の債務超過。私が国会議員の時、そして長男健太の質問の時も、黒田日銀総裁は、しぶしぶ「一時的なら債務超過はありうる」とお認めになった。一時的で終わる理由が私には全くわからない。なんども書きているが中央銀行が債務超過でも、中央銀行が信用を失わない(=円が紙くず化しない)理由は3つある。その一つが「債務超過が一時的」だ。しかし「なぜ債務超過が一時的にとどまるのか」の説明を黒田総裁からは一度も聞いたことがない。聞いても答えない。
5.「え、え、え、物価対策で補正予算?」
来月に物価対策で補正予算を組むという。何という国だろう?物価対策の主役は中央銀行のはずだ。欧米はその常識通りに動いている。政府は裏方で微調整役のはずだ。それをこの国では中央銀行がダンマリどころか、金融緩和に固着(長期金利上昇を断固防止)し政府府と反対の策を取る。物価上昇に財政で対処するとは、やはり日本政府はMMT実施国なのか」と思いきや、MMTとは真逆に補正予算を組んで、財政拡大だそうだ。ちなみにMMT論者よ、物価上昇が加速している今こそ、補正予算に大反対し、大増税を主張しなさいよ、それが理論でしょ(皮肉)。
ところで、インフレが加速している米国では現在、財政引締論が主流で、バイデン大統領の歳出増に非難が盛り上がっている。
ところが日本は真逆の財政出動。供給が不足しているときに、「住民税非課税世帯への5万円給付。ガソリン価格抑制の補助金、輸入小麦の価格抑制」で需要を喚起策し、その原資は国債発行で、日銀が買い取ってさらにお金を刷る(=貨幣価値の希薄化)。円安で物価高が加速しそうなときに、さらに火に油を注ぐ政策。何しようとしているのかね、この国は?
https://nikkei.com/article/DGKKZO64185240Z00C22A9MM8000/