(ここに述べる意見/分析は私が所属する政党の公式見解でも分析でもありません。私の個人的見解・分析であることをご理解ください)
1.「伝統的金融政策と非伝統的金融の出口での違い」
伝統的金融政策のもとでの利上げでは、日銀自身には全く負荷がかから
ない。だから、経済動向、インフレ動向のみの分析で「利上げすべし」「利上げが近いだろう」等の主張や分析が出来た。しかし、今の日銀では利上げ時、資金回収(=国債オペ減額)にはすさまじい負荷がかかる。それを無視して金融緩和解除の規模や時期を論じる人は、何にもわかっちゃいないと思う。
先日も触れたが、2003年10月28日の日本金融学会で植田日銀審議委員(当時)が「(債務超過のリスクを意識するようになると)債務超過に陥る前からその可能性(注;債務超過)を高める引き締め政策を躊躇してしまうリスクも無視できない」と述べられたのはこの日銀に対する負荷のせいである。
2.「少しの利上げで加わる日銀への膨大な負荷」
現在の日銀は長期金利をあげると0.1%ごとに2.9兆円の評価損が発生する。既に20兆円の評価損があるのに、それにプラスしての話だ。
さらに短期金利を上がると0.1%ごとに年間5000億円の損の垂れ流しになる。
年間1.5兆円の受取利息しかないのに、だ。
だからこそ、利上げはシミ程度しかできず、欧米中央銀行には出来るお金の回収(=国債買いオペの減額)も日銀には出来ないのだ。
「FRB や豪州中央銀行も債務超過になったのに大丈夫ではないか」という人には、(先日も書いたが)「照の富士が1升の酒を飲んでも大丈夫だから幼稚園児が1升の酒を飲んでも大丈夫」というのに等しい。FRB や豪州中央銀行に比べて日銀尾財務内容はけた外れに悪い。たとえばFRB の年間受取金利は年間27 兆円もあるのに日銀は約1.7兆円に過ぎない。
3.「通貨発行益とは受取利息と支払利息の差」
正統的金融論の教えによれば「中央銀行の利益とは通貨発行益のことであり、「受取利息―支払い利息」で計算される。株などの価格が上下する金融商品は中央銀行が債務超過になり、通貨の信用を落とすリスクがあるために絶対保有してはいけないものとされている。したがって日銀が「株式の評価益があるから純資産です」など中央銀行たるもの口に出してはいけない内容である。
ところで国債を保有(大部分が長期国債)することによって日銀は1.7兆円の受取利益を毎年、受けている。1.7兆円を受け取るために保有する国債は金利が0.1 %上昇するごとに2.9兆円の評価損を生じる。とんでもない話。
4.「日銀の負荷に考えが及ばない欧米投資家やトレーダーは泣きを見る」
6月13日、14日の日銀政策決定で欧米投資家や一部日本の投資家は日銀の利上や国債購入減額を期待しているようだ。経済実態を考えれば当然の分析だ。しかし国債購入額を減額すれば長期金利は上昇し、ものすごい負荷が日銀自身にかかるのは上に説明した通り。短期金利の引き上げも同じだ。
マーケット、欧米人はかなり引き上げを期待しているようだから、日銀の政策変更がシミ程度だと(実際、シミ程度しかできないだろうが)大幅な円の失望売りが起こるだろう。
万が一、日銀がやけくそになって金利大幅引上げや国債の購入大幅減額を行えば、それこそ円の非常事態宣言だ。
5,「日銀が債務超過になったら何が起こるか?」
ドイツで第2次大戦後にハイパーインフレが起きたとき、「ほとんどのドイツ国民は慣れ親しみ信頼している通貨であるマルクを手放そうとしなかった。もうこれでマルクは終わりだという暴落が何度も起こっても。それは変わらなかった。マルクにしがみつく以外に選択肢がなかった者も多い」(「ハイパーインフレの悪夢」(アダム・ファーガソン著)(新潮社)
その結果「中立国に資産を持っていた幸運な少数のものを除くと不労所得階級は見るに忍びない惨めさを呈していた。若くて元気なものは仕事を見つけられたが老いたものは極貧に陥った」(「ハイパーインフレの悪夢」(アダム・ファーガソン著)(新潮社)
当時に比べれば、他国の資産(特にドル)を持つのはいとも簡単だ。だからこそ「これだけ中央銀行の財務内容が悪化しているのだから、ドルを持って自衛しろ」と私は言っている。歴史は繰り返すのだ。特に財政ファイナンス(~異次元緩和)をしてしまった以上。
6.「債務超過に陥った中央銀行が発行する通貨を外国人が信じてくれるのか?」
もし中央銀行が債務超過になったなら、たとえ日本人が円に固着しても外国人は円を保有したくもなければ決済で受け取りたくもないだろう。世界にはいろいろな通貨があり、わざわざ円を選択する必要などないからだ。(例えば原油などの)貿易の決済なら円ではなくドル決済を要求する。そうでなければ売らなない。それは円の信用の失墜(=ハイパーインフレ)と同義だ。外国のA国の中央銀行が大幅な債務超過になり、すぐに純債務に戻らないのなら、私はその国に通貨など持ちたくない。その逆バージョンである。
7.「なぜそういう事態になったのかや、自分たちをこんな目に合わせている敵は誰なのか」(アダム・ファーガソン)
土曜日の日経新聞「財政健全化割れる自民 『堅持』『固執反対』2つの提言」
財政健全化推進本部のメンバーには敬意を表するが、財政政策検討本部(注 財政出動派)のメンバーには「この期に至っても、まだそんなことを言っているのか?とただただ、あきれるしかない。アダム・ファーガソン氏言うところの「なぜそういう事態になったのかや、自分たちをこんな目に合わせている敵は誰なのか」をはっきりさせるために誰がメンバーなのかを知りたい。これらの人々には政治を(少なくとも経済政策)を2度と任せたくない。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO81261460X00C24A6EA4000/
以下の「ハイパーインフレの悪夢」(アダム・ファーガソン著)(新潮社)p21)の一文を思い出す。「ハーフェンシュタインは無分別な銀行家であり、紙幣で国を埋め尽くそうとした人。(中略)しかし、誉の高い金融の権威が健全な精神の持ち主だったとしても、その手でドイツを破壊させた事実は変わらない。(中略)確かに主役を演じた人物以外にも、避難されてしかるべき者や、無責任だったものは大勢いた。犠牲者はドイツ国民だった。体験者の証言によれば、苦悩のなかで正気を失い、インフレに唖然となったという。なぜそういう事態になったのかや、自分たちをこんな目に合わせている敵は誰なのかは、わからなかったという」
8.「『みんかぶ特別記事』第2回配信」
6月7日(金)、第2回目の インタビュー記事が「みんかぶ特別記事」(株式会社ライブドア みんかぶ編集部)としてアップされました。 よろしくお願いいたします
https://mag.minkabu.jp/politics-economy/25908/?membership=1